「プロとしての線引き」を教えた日
皆さん、こんにちは。
統括部長のTです。
新人調査員の育成を担当していると、彼らの素直な疑問や熱意に、私自身が学ばされることがあります。
ある日、若手の調査員からこんな質問を受けました。
「もっと深く対象者を追えば、より多くの情報が取れるんじゃないですか?」と。
たしかに、尾行の技術が上がると、さらに先まで踏み込んで調べたいという気持ちになることがあります。
でも私はそこで、はっきりとこう伝えました。
「どこまで調べるかではなく、どこで止めるかを判断できるのがプロだ」と。
調査の目的は“情報を集めること”に思われがちですが、実際には“必要な情報を、依頼者が活用できる形で届ける”ことにあります。
そのためには、感情や好奇心ではなく、目的と倫理に基づいて行動を選ばなければなりません。
たとえば、対象者が子どもと過ごしているシーンを見かけたとしても、それが今回の依頼内容に関係なければ、追うべきではありません。
「ここまでは必要ない」と判断する力こそ、調査員に求められる大切なスキルです。
この話をしたあと、新人はしばらく黙っていましたが、最後に「線を引くことが難しいと感じていたけど、必要なことなんですね」と納得した様子で話してくれました。
私たちは調査員である前に、人として信頼される存在でなければなりません。
どれだけ情報を持っていても、報告書を受け取る依頼者が傷つくだけなら、それは調査として“失敗”だと私は思います。
線引きを誤ると、法的にも倫理的にも問題が発生する可能性があります。
だからこそ、新人には繰り返し「調査は武器ではなく支えである」と伝えています。
時には、依頼者から「もっと調べてほしい」と言われることもあります。
そんな時こそ、こちらが冷静に「それは必要ですか?」と問い直す姿勢が必要です。
それが、プロフェッショナルとしての誠実さだと私は信じています。
「追うこと」だけが探偵の仕事ではありません。
「引くこと」「止まること」「伝えること」——
そのすべてに責任を持てるかどうかが、調査員として成熟する第一歩なのです。
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