証拠写真1枚にかかる集中力
皆さんこんにちは。調査員のOです。
「シャッターを押すまでの3秒が勝負」——これは私が新人の頃、先輩に教わった言葉です。
そのときは正直ピンと来ませんでしたが、今ではその意味が痛いほどわかります。
探偵の仕事では、「ただ撮る」だけでは証拠になりません。
撮影対象が誰なのか、どこにいるのか、何をしているのか、それを“明確に伝える一枚”である必要があります。
そしてそれを撮るタイミングは、たいてい一瞬です。
例えば、対象者が誰かとラブホテルに入る直前、駅の改札でキスを交わす瞬間、車に同乗する時。
顔が隠れていないか、明かりは十分か、背景に施設名が写っているか——
私たちは、これらすべてを同時に確認しながら、わずか数秒でシャッターを切っています。
現場の環境もさまざまです。
雨の日はレンズに水滴がつかないよう細心の注意を払い、暗い場所ではISO感度を調整してノイズを抑え、ピントを外さないよう神経を研ぎ澄ませます。
一度逃した瞬間は、二度と戻ってきません。
以前、対象者が突然振り返ったことがありました。
その時、私はカメラを下ろし、視線を逸らしました。
「撮ること」より「気づかれないこと」を優先する判断でした。
このような“撮らない選択”ができるかどうかも、プロとしての技術だと思います。
撮影した後は、ただ保存するだけでは終わりません。
その一枚を報告書に使用するかどうか、どの写真を組み合わせるべきか、どの順番で見せれば依頼者にとって分かりやすいか。
そうした編集と構成も、私たち調査員の大切な仕事です。
写真一枚に込める責任は重いです。
依頼者は、その一枚を見て現実と向き合い、人生の選択を迫られることもあります。
だからこそ、撮影の一瞬には、技術だけでなく「覚悟」が必要なのです。
証拠写真は、ただの画像ではありません。
依頼者にとっては“真実の証明”であり、“前に進むためのきっかけ”です。
私たちはその一瞬にすべてを懸けて、現場に立っています。
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